- このトピックは空です。
-
投稿者投稿
-
2020年9月4日 #143
歯科におけるリスクマネジメントは、個人情報、天災リスク、対従業員、対患者等々枚挙に暇がない。今回は対患者さんトラブルについて、実際の裁判例を踏まえ考えてみたい。
事例1
東京地裁 平成25年判決
コンポジットレジン修復治療において、歯牙の削りすぎが問題となった事例
要旨
C歯科クリニックを開設する歯科医師Oが、患者Xとの間で、左右上1番歯間部に充填されていたコンポジットレジンを除去し、再充填する診療契約を締結し、同診療を行ったところ、①左右上1番切端部の天然歯を斜めに切除して同箇所の形態を変化させ、②左右上1番唇側面の天然歯を切除してざらつきを生じさせたとして、患者Xが歯科医師Oに対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として、既払いの治療費等3万5620円、補綴治療費39万円、慰謝料1000万円及び弁護士費用104万2562円の合計1146万8182円の支払いを求めた事案において、患者Xの請求を一部認め、30万9463円の支払いを命じた。
最近は色々と情報が入手しやすくなった為、患者さんから高額な要求を受ける事例も散見される。とはいえ、むやみに高額要求が認められる訳ではない。今回は審理の結果、大幅に減額された。多くの歯科医師は、日常行うCR充填において、このような裁判が起こされる事が信じられないだろう。しかし、これが現実だ。一度裁判が起これば、平日、裁判所の都合で出廷を余儀なくされる。診療や日常生活が破綻するかもしれない。歯科治療は非可逆的な内容がほとんどだ。その治療は本当に必要なのか、必要であれば患者さんに十分な説明をし、同意を得ることが当たり前だが、基本中の基本である。
出典:裁判所ウェブサイト ウェストロージャパン
事例2
東京地裁 平成24年判決
要旨
原告らが、学校法人である被告Y1の運営する病院の小児歯科を受診して治療を受けていた原告らの子が腫瘍崩壊症候群を発症し腸管穿孔を発症して死亡したのは、担当医である被告Y2ら本件病院の歯科医師が血液検査の実施を懈怠し腫瘍性疾患の診断及び治療が遅滞したことによるものであるなどと主張して、被告らに対し、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案において、本件子の症状や診療経過によれば、診療時点において、本件病院の歯科医師らが血液検査を実施して炎症性疾患と腫瘍性疾患とを鑑別する必要があったとまでは言えず、血液検査を実施しなかったことに注意義務違反があったということはできないとして、原告らの請求を棄却した。
当時10歳の子は左上Eの頬側歯肉の膨隆を主訴に近医歯科を受診。同部根尖性歯周炎と診断し、根管開放、抗菌薬の処方をうけた。一週間後症状に変化がないため、大学病院歯科を紹介され受診。同部の抜歯術を受けた。同部の膨隆は顕著な変化はないものの、膨隆がやや縮小傾向であったため、経過観察とした。合わせ、腹痛、腹部膨隆のため近医内科を受診。
腹痛等の改善がないため、大学病院を紹介され、受診。ここでバーキットリンパ腫と確定診断され、治療が始まったが急性呼吸窮迫症候群を発症し死亡。歯科受診からわずか34日目のことである。
バーキットリンパ腫は、悪性リンパ腫の一種であり、それ自体は極めて稀な疾患である。バーキットリンパ腫を発症すると、腹部膨隆、腹痛、嘔吐感等の消化器症状が出現するほか、口腔内に歯冠を被覆するような膨隆が出現したり、歯牙の動揺、疼痛、口唇部の知覚麻痺の症状が出現したりする。バーキットリンパ腫は急激に拡大する特徴を有するものの、化学療法が実施された場合における生存率は高い。原告はこれらのことより裁判を起こしたと思われる。
この裁判においては原告の請求は完全に棄却され、被告歯科医師は無罪となった。
けれど、歯科的に適切な診断と治療を行ったにもかかわらず、症状の改善が認められない場合、全く別の疾患の可能性を疑い、精査可能なより高度な医療機関との連携が必要不可欠である。
出典:裁判所ウェブサイト ウェストロージャパン
一般診療を行う歯科の先生方にとって本節は見たくも聞きたくないかもしれない。しかし、判例を知れば知るほどトラブル発生を未然に防げると私は確信している。
相田能輝
-
投稿者投稿
- このトピックに返信するにはログインが必要です。