Bスポット療法を提唱した堀口は、頭痛の大部分が鼻咽腔壁の炎症性疼痛の放散に過ぎないとしている。前頭部痛は軟口蓋裏面、頭頂部痛は上咽頭天蓋、後頭部痛は上咽頭後壁、側頭部痛は下鼻道後方天蓋の擦過により改善されるとされ、頭痛の部位により擦過部位の選択をするべきかもしれない。
盲目的手技による上咽頭擦過療法(Epipharyngeal abrasive therapy;EAT)では、比較的上咽頭後壁の擦過は十分できていると思われるが、天蓋や側壁、側壁上方の擦過が不十分になりやすい。内視鏡下のEAT(E-EAT)は、上咽頭局所を直視できるためこれらの部位を確認しながら擦過できるが、内視鏡の消毒や保険請求の点からも毎回E-EATを施行することは困難であり、手技的にもやや難しく熟練を要する。鼻腔側からの盲目的TN-EATを行う際にはこれらの部位を意識しながら擦過を行うとともに、天蓋や側壁を擦過する際には綿棒の先端を曲げた弯曲綿棒を用いることも考慮すべきである。下鼻道後方天蓋を擦過するとき、下鼻道は狭いため細めの綿棒を用いる必要がある。軟口蓋裏面の擦過は、弯曲綿棒の弯曲部を下方に向けることにより可能であり、咽頭捲綿子で口腔側からのTO-EATを行う際には、軟口蓋裏面を手前に引くようにすると擦過が可能である。
今回慢性上咽頭炎症例に対して、治療前後に鼻咽腔内視鏡所見の重症度分類と自覚症状のアンケートならびにVASを施行し、局所所見および各自覚症状の治療効果につき、頭痛患者に主として検討してみた。対象は慢性上咽頭炎177例(男40例、女137例、平均年齢51.7歳)である。治療は1%塩化亜鉛溶液を用いてTN-EATおよびTO-EATを週に1-2回程度施行し、原則としてEAT 10回施行後に治療効果の判定を行った。自覚症状に関しては、治療前後に主訴を含む各症状についてアンケートによる重症度スコア(4段階)と全身状態のVAS(10段階)による評価を行い、統計学的に解析した。EAT施行後における局所所見の改善率は74.0%で、自覚症状に関しては主訴86.4%、VAS 81.4%であった。アンケート用紙に記載のあるすべての各自覚症状およびVASスコアは有意に改善した。また局所所見と主訴、主訴とVASの改善度との関連において有意な相関を認めた。
頭痛を主訴とした症例は11例(6.2%)で、著明改善5例、改善5例、不変1例で改善率は90.9%であった。治療前後のアンケート用紙で頭痛の自覚症状があったのは110例(62.1%)で、改善率は75.5%であった。以上の検討から、頭痛に対するEATの有効性が示唆された。
大野芳裕