一般的に「扁桃」という呼称は口蓋扁桃を示し、中咽頭に存在する左右一対のリンパ組織である。腺組織ではないので、「扁桃腺」と呼ぶのは間違いである。扁桃病巣疾患とは「扁桃が原病巣となり、扁桃から離れた臓器に反応性の器質的または機能的傷害を引き起こす疾患」と定義され、その治療として扁桃摘出術(扁摘)が極めて有効である疾患群を呼ぶ。過去には「病巣性扁桃炎」、「扁桃病巣感染症」という呼称が使われていたが,その病態は扁桃の炎症や感染症ではないことが明らかなったため,現在では「扁桃病巣疾患 (tonsillar focal diseases)」という呼称が一般的に使われている。さらに,最近の基礎的研究成果から、その病態は「扁桃における常在菌に対する免疫寛容の破綻がトリガーとなって生じる自己免疫・炎症疾患症候群(tonsil induced autoimmune/inflammatory syndrome:TIAS)」として捉えられるようになった。
現在、掌蹠膿疱症、SAPHO(Synovitis, Acne, Pustulosis, Hyperostosis, Osteitis)症候群(掌蹠膿疱症性骨関節炎、胸肋鎖骨過形成症を含む),およびIgA腎症は扁桃摘出術の極めて高い有効性が報告されており、扁桃が病巣の代表的疾患として確立されている。これらの3大疾患の他に、尋常性乾癬、膿疱性乾癬、結節性紅斑、IgA血管炎などの皮膚疾患、慢性関節リウマチ、反応性関節炎などの骨関節疾患、加えてPFAPA(Periodic Fever, Aphthous stomatitis, Pharyngitis, cervical Adenitis)症候群、ベーチェット病などの全身疾患、炎症性腸疾患などの中には扁摘が著効を呈した症例も数多く報告されている(図1)。
TIASの発症病態は,以下に考えられている(図2)。
正常人では口腔常在菌には免疫寛容機構が働いているため,免役応答しない。しかし、扁桃病巣疾患患者では口腔常在菌に対する免疫寛容機構が破綻しているために、常在菌や細菌DNAに対して過剰免疫応答する。その結果、扁桃B細胞が活性化され、掌蹠膿疱症では皮膚に共通抗原性のある熱ショック蛋白などに対する抗体産生が誘導される。一方,IgA腎症では自然免疫系を介したT細胞非依存性の変異IgAが産生される。これらは体循環を介して皮膚や腎などの標的臓器に運ばれ,沈着する。一方、扁桃T細胞でも常在菌や細菌DNAに対して過剰免疫応答によって皮膚や腎臓に親和性を有する皮膚親和性受容体(CLA)やケモカイン受容体(CXCR3やCX3CR1)も過剰発現され、体循環を経て皮膚や腎へホーミングする。これらの標的臓器に沈着した扁桃から産生された自己抗体・変異IgAとホーミングしたや扁桃T細胞によって組織傷害が生じると考えている。
図説
図1.これまで報告されている扁桃を病巣とする疾患
図2.Tonsil induced autoimmune/inflammatory syndrome (TIAS)の発症機序
原渕保明
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