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トップページ フォーラム 慢性上咽頭炎関連 慢性上咽頭炎と自律神経機能障害

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    吉田 律樹JFIR 事務局
    キーマスター

     

    慢性上咽頭炎は中枢神経系リンパ排液路に位置する頭蓋底部/上咽頭の慢性炎症である。視診で著明な粘膜血管拡張と透過性亢進および静脈鬱滞を示すが、この領域のリンパ排液路鬱滞は上流の中枢神経系リンパ排液路鬱滞をもたらし、頭痛・うつ・不眠といった症状を招来する可能性がある。また近年では、上咽頭における舌咽神経/迷走神経や交感神経を含む自律神経終末の高密度集積が解剖学的に明らかにされ(Mu L.et al. J Neuropathol Exp Neurol.72:614,2013)、慢性炎症に伴う神経終末のirritationが自律神経機能障害をもたらしている可能性が示唆されている。

    では、慢性上咽頭炎による自律神経機能障害とは何なのか?古くから研究者の慧眼はこのことに言及している。

    1922年Baily: 「鼻から入ってくるリンパ流出路が咽頭部で閉塞されると、迷走神経その他の脳神経や交感神経節の機能に影響が及び、身体全体のあらゆる臓器に不調をもたらす」(Baily JH. Applied Anatomy of the Lymphatics ver.5 by F.P.Milliard)。

    1934年 Reilly: 「自律神経の中枢または末梢(または咽頭のような知覚神経線維の豊富な粘膜)の過剰刺激により惹起された全身諸臓器の障害をReilly現象と命名」「細菌毒素・物理的刺激・アレルギー反応などが刺激因子となり、この刺激は刺激を加えた部位より離れた臓器に血管拡張・血管透過性亢進・浮腫・梗塞・網内系の障害などをひきおこし、これら全てが臨床上の種々の悪性症状を引きおこす」(Reilly J. et al. C R Soc Biol. 116:24,1934)。

    1973年 堀口申作教授(東京医科歯科大学耳鼻咽喉科):「脳循環障害性眩暈症や頸性眩暈症などに鼻咽腔炎が併存していると自律神経異常亢進を来す」(古屋英彦. 堀口申作教授退官記念論文 日耳鼻 2:44,1973)。

    自律神経失調症に対する上咽頭擦過治療(EAT)の効果は堀口教授らがまとめているが、データでは、連日~週2回のEATをしつつ数ヶ月間(1~6ヶ月間)入院経過観察を行うと、成人眩暈では約89%、小児起立性調節障害では約67%が治癒し、また、回転性及び非回転性眩暈における治癒率はそれぞれ56%、57%と報告している(図1)。

    近年、急速に発展を遂げた神経回路の機能解析は、慢性上咽頭炎と自律神経機能障害との関連を説明しうる。迷走神経咽頭枝に端を発する上咽頭の知覚情報は、僅か数cm背側に位置する延髄孤束核に速やかに到達するが、孤束核にはハブ機能があり、脳幹部に存在する神経核間の連絡を経て、神経伝達・神経損傷抑制・再生・血流調節・疼痛制御・記憶・血管トーヌスによる脳血流調節、炎症抑制など多彩な機能に関与している。すなわち、迷走神経は視床・視床下部・下垂体・大脳皮質の機能全てに影響を及ぼしている。孤束核の情報は、更に迷走神経遠心路へも伝達されるが、進化的に古い背側迷走神経核を経た情報は主に横隔膜下の消化管機能を調節するのみならず、脾臓を介するマクロファージが関与する炎症を抑制することも明らかとなり、この経路を利用して、リウマチや潰瘍性大腸炎を治療する試みが近年行われている。一方、哺乳類は疑核を起始部とする腹側迷走神経を獲得しており、肺機能に応じて心臓を休ませる呼吸性不整脈という制御機構により生命安全性を高めている(図2)。

    つまり、Baily、Railly、そして堀口教授らの観察は、慢性上咽頭炎のように咽頭・口腔において病的な強い刺激、あるいは弱くとも持続的な刺激が加わると、組織に高密度に集積している舌咽・迷走神経や交感神経終末が侵襲を受け、あるいは過剰刺激されて迷走神経機能異常や交感神経機能異常がもたらされ、また、この情報が脳幹部に伝えられ、脳幹部における自律神経核間の連絡によって、更に広範囲に情報が伝播され、自律神経過剰刺激症候群として病的自律神経反射を誘発するのみならず、視床から大脳皮質にまで至る広い領域の脳神経機能にまで悪影響が及ぶ可能性を示していたのである。また、脳下垂体・副腎にまで影響が及ぶと、慢性疲労症候群や内分泌機能異常を招き、これは“Selyeの適応症候群”と呼ばれている。加えて、脳幹部において、種々に修飾されたインパルスが迷走神経遠心路や交感神経を介して遠隔の諸臓器にまで伝播されると、血管運動の撹乱や平滑筋緊張といった病理変化を示す微小循環障害をもたらしてしまうことにもなり、疾患としては消化性潰瘍・副腎出血・心筋梗塞などが起こりうる(図3)。

    図4に、慢性上咽頭炎によってもたらされる可能性のある自律神経機能障害に関連した症状や疾患の数々をまとめたので参照されたい。

     

    永野千代子

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