喫煙による煙には,4,000種類以上の化学物質が含まれ,有害物質約250種類の中には少なくとも約70種類の発がん性物質や多数のフリーラジカル等が含まれている.したがって,喫煙が,がん,循環器疾患,呼吸器疾患,消化器疾患,その他のさまざまな健康障害の原因になっていることが,多くの疫学的,実験的研究から示唆されている.すなわち,喫煙は,予防できる最大の死亡原因である.
2016年に公表された「喫煙と健康 喫煙の健康影響に関する検討会報告書(2016年8月)」(通称,「たばこ白書」)で,タバコの健康影響について,疫学研究等の科学的知見を系統的にレビューし,さまざまな項目を総合的に吟味したうえで,タバコと疾患等との因果関係をレベル1~レベル4の4段階で判定されている.
成人の場合
因果関係を推定する証拠が十分(確実):レベル1
がん:肺,口腔・咽頭,喉頭,鼻腔・副鼻腔,食道,胃,肝,膵,膀胱,子宮頸部
肺がん患者の生命予後悪化,がん患者の二次がん罹患,かぎたばこによる発がん
循環器疾患:虚血性心疾患,脳卒中,腹部大動脈瘤,末梢動脈硬化症
呼吸器疾患:慢性閉塞性肺疾患(COPD),呼吸機能低下,結核による死亡
糖尿病:2型糖尿病の発症
その他:歯周病,妊婦の喫煙による乳幼児突然死症候群(SIDS),早産,低出生体重・胎児発育遅延
未成年者の場合(喫煙開始年齢が若いことによる)
因果関係を推定する証拠が十分(確実):レベル1
全死因死亡,がん死亡,循環器疾患による死亡,がんにかかるリスク増加
稲垣幸司